処遇改善加算の「ピンハネ」と
言われないために、
事業所がやるべき説明と記録
処遇改善加算の額と、職員一人ひとりの給与明細に出てくる増額分は、そもそも一致しません。加算額は1月当たりの総単位数に加算率を乗じて計算されるため、月ごとに変動します。配分先は福祉・介護職員だけでなく、施設長や事務員を含む全職種です。賃金改善額には、法定福利費等の事業主負担の増加分も含めることができます。この3つのずれが、職員から見て「加算はいくら入っているのか」「自分の分はどこへ行ったのか」が分からない状態を作ります。国の通知(令和8年度分)は、この見えにくさを事業者側が埋めることを求めています。賃金改善を行う方法等を職員に周知することが定められています。職員から照会があった場合は、当該職員の賃金改善に係る内容を書面を用いるなど分かりやすく回答することも定められています。処遇改善計画書の確認事項にも「本計画書の内容及び賃金改善の方法を雇用する全ての職員に対して周知しました」というチェック欄があり、証明資料の例として会議録と周知文書が挙げられています。誠実に配分していても、周知と記録がなければ疑いを晴らす材料が残りません(2026年8月16日時点、令和8年6月1日適用の取扱い)。
目次
「処遇改善加算って、うちはちゃんと配られているんですか」。職員からこう聞かれて言葉に詰まる場面は、事業所の規模に関係なく起きます。聞かれる側は、必ずしも配分を怠っているわけではありません。それでも聞かれます。加算の額が、職員の側から検算できないからです。
僕は埼玉県志木市で就労継続支援B型の事業所を運営していて、福祉・介護職員等処遇改善加算も算定しています。2026年度の配分は、自分で設計しました。だから、説明する側の面倒くささも分かるつもりです。
先に答えを書きます。加算額と給与明細の増額分は、そもそも一致しません。そして、その見えにくさを埋める周知は、事業所の親切ではなく通知が事業者に求めていることです。
なぜ「ピンハネされている」と疑われるのか
疑いが生まれる原因は3つで、加算額が月ごとに動くこと、配分先が全職種であること、金額の性質がずれることです。
不信を持たれる事業所が、配分を怠っているとは限りません。制度の作りそのものが、職員の側から検算できない構造になっています。順に書きます。
1つ目は、加算額が固定額ではないことです。加算の単位数は、1月当たりの総単位数に、加算区分とサービス類型ごとの加算率を乗じて算定します。総単位数は、基本サービス費に各種の加算減算(処遇改善加算を除く)を加えたものです。利用者の出欠や加算の算定状況で総単位数が動けば、加算額も毎月動きます。給与明細に毎月同じ額の手当が並んでいれば、職員からは「加算はもっと入っているのではないか」と見えます。制度上は、年間を通じて加算額以上の賃金改善になるよう、事業者が配分を設計する前提になっています。
うちの2026年度の配分も、僕が自分で設計しました。全部を毎月の固定手当にする形は選ばず、月々の手当と賞与に分けています。賞与の回数は年2回で、多くても年3回までに収めました。理由は単純で、加算額は月ごとに動くのに、毎月の固定手当は簡単には動かせないからです。一度上げた手当を下げるとなれば、就業規則の不利益変更の話になりかねません。年単位で配分を設計するほうが制度の作りに素直だ、というのが僕の読み方です。
2つ目は、配分先が福祉・介護職員に限られないことです。国のQ&Aは、配分の対象に福祉・介護職員以外の全職種が含まれるとしています。想定される職種として挙げられているのは、施設長・管理者、サービス管理責任者、看護職員、相談支援専門員、管理栄養士・栄養士、調理員、事務員等です。生活支援員から見れば、自分の手当が加算額を職員数で割った額より小さいのは当然です。ただ、その前提が共有されていないと不信の材料になります。
3つ目は、金額の性質のずれです。賃金改善額には、賃金改善に伴う法定福利費等の事業主負担の増加分を含めることができます。社会保険料の事業主負担が増えた分は、誰の明細にも現れません。明細上の増額を全職員分足しても、加算額には届かないわけです。
| 職員から見えるもの | 職員から見えないもの |
|---|---|
| 自分の給与明細の手当・基本給の額 | 月ごとに変動する加算額の実額 |
| 賞与の支給額 | 事業所全体の配分の設計と職種ごとの配分 |
| 求人票や情報公表制度の記載 | 法定福利費の事業主負担増加分 |
| 就業規則・賃金規程 | 加算の支払時期と賃金改善の支給時期のずれ |
支給時期のずれも誤解を生みます。国のQ&Aは、支払の時期を3つ示しています。当月の労働時間に基づき当月中に見込額で支払う方法、翌月中に支払う方法、報酬が振り込まれる翌々月中に支払う方法です。この3つから、事業者が任意に選択してよいとされています。翌々月払いを選べば、4月分の加算に対応する賃金改善は6月の給与になります。この選択を説明していないと、加算率が上がった月と手当が増える月がずれます。その間に不信が育ちます。
正直、この3つのずれを一度の説明で伝えるのは無理だと感じています。だから僕は、話す順番のほうを決めるつもりです。まず加算額は毎月動くと言い、次に配る先は全職種だと言い、そのあとで明細に出ない部分の話をします。金額の話から入らないほうが、最後まで聞いてもらえると思っています。
職員への周知は、どこまでやれば足りるのか
職員への周知は通知8(1)が事業者に求めていて、賃金改善を行う方法等と就業規則等の内容の両方が対象です。
見えにくさを埋める作業は、事業所の親切ではなく通知上の要求です。通知の8(1)は、処遇改善加算を算定する事業者に向けた定めです。当該事業所における賃金改善を行う方法等について、処遇改善計画書を用いるなどにより職員に周知することを求めています。あわせて、就業規則等の内容についても職員に周知することとされています。さらに、職員から処遇改善加算に係る賃金改善に関する照会があった場合の定めがあります。当該職員の賃金改善に係る内容について、書面を用いるなど分かりやすく回答することとされています。同じ内容はQ&A問2-6にも重ねて書かれています。
読み飛ばしやすいのは、周知の対象が賃金改善の方法だけではないところです。就業規則等の内容も周知の対象になっています。うちは就業規則と賃金規程を社労士と一緒に整備していますが、整備していて思うのは、整備と周知は別の作業だということです。キャリアパス要件Ⅰ・Ⅲは、書面で整備したうえで全ての福祉・介護職員に周知することまでを求めています。しまい込んだままの規程は、要件の側から見れば無いのと同じだと考えています。
周知は算定要件の側からも求められています。整理すると次のとおりです。
| 場面 | 求められていること | 根拠 |
|---|---|---|
| 計画書の提出時 | 「本計画書の内容及び賃金改善の方法を雇用する全ての職員に対して周知しました」にチェック。証明資料の例は会議録、周知文書 | 別紙様式2-1 確認事項 |
| キャリアパス要件Ⅰ | 任用要件と賃金体系を就業規則等の明確な根拠規程として書面で整備し、全ての福祉・介護職員に周知 | 通知3(1)② |
| キャリアパス要件Ⅱ | 資質向上の目標と具体的な計画を策定し、研修の実施または研修機会の確保を行い、全ての福祉・介護職員に周知 | 通知3(1)③ |
| キャリアパス要件Ⅲ | 昇給の仕組みを就業規則等で書面整備し、全ての福祉・介護職員に周知 | 通知3(1)④ |
| 加算Ⅰ・Ⅱの算定時 | 職場環境等の改善に係る取組を、障害福祉サービス等情報公表制度やホームページで外部から見える形で公表 | 通知3(1)⑦ |
| 職員から照会があったとき | 当該職員の賃金改善に係る内容を、書面を用いるなど分かりやすく回答 | 通知8(1)、Q&A問2-6 |
常時雇用する者が10人未満で、就業規則の作成義務がない事業所もあります。その場合は、就業規則の代わりに内規等を整備して周知すれば要件を満たします。規模の小ささは、周知を省略してよい理由にはなりません。小さい事業所ほど口頭で済ませたくなりますが、口頭だと手元に残るものがありません。
疑いを晴らす材料は、どこから持ってくるのか
説明の材料の軸は、国民健康保険団体連合会から届く加算額のお知らせと、実績報告書(別紙様式3-1)で突合する数字です。
令和8年度分の実績報告書は、その年度に算定した加算の合計額と、その年度の賃金改善額を並べて書かせる様式です。賃金改善額が加算額以上であることが確認できなければ、算定要件を満たしていないことになります。あわせて、令和7年度の加算と独自の賃金改善の影響を除いた賃金額を比較する欄があります。加算による賃金改善以外の部分で賃金水準を下げていないかも、ここで確認されます。
加算額の書き方は、様式の記入上の注意に定められています。国民健康保険団体連合会から送付される「福祉・介護職員処遇改善加算等総額のお知らせ」および「内訳のお知らせ」に基づいて記入します。事業者が自分で試算した金額ではなく、国保連から届く通知が加算額の根拠になります。
職員への説明でも、この書類が一番強い材料になると思っています。自分で作った集計表は、作った側の都合が入っていると見られても仕方がありません。国保連から届いた通知なら、その疑いが立ちません。だから僕は、このお知らせを実績報告用の書類としてだけでなく、説明の材料としても見ています。
実績報告で賃金改善額が加算額を下回った場合は、返還の対象です。ただしQ&A問1-9は、不足する部分を賞与等の一時金として追加的に配分した場合の扱いを示しています。その場合は、返還を求めない取扱いとしても差し支えないとしています。年度が終わってから気づくと、打てる手が限られます。期中に加算額の累計と賃金改善額の累計を突き合わせておく必要があります。
なお通知7は、既に支給された加算の一部もしくは全部を不正受給として返還させるか、加算を取り消すと定めています。対象になるのは次の場合です。
- 加算の算定額に相当する賃金改善が行われていない場合
- 賃金水準の引下げを行いながら、特別事情届出書の届出が行われていない場合
- 虚偽または不正の手段により加算を受けた場合
実務上の争点は、着服の有無ではありません。賃金改善額が加算額に達しているかどうかと、それを証明する記録が残っているかどうかです。ここが押さえられていれば、疑いを向けられたときに出せる材料があります。
説明と記録を、別の作業にしないのが要点です。実務では、次のように組めます。
処遇改善計画書は、職員説明にそのまま使える資料として通知が名指ししています。計画書を提出したら、同じ内容で職員会議の議題に載せます。会議録に日付と出席者と配布資料名を残せば、説明した事実がそのまま記録になります。欠席者に周知文書を配って受領を確認する手順も決めておくと、全員に届いたことを示せます。
国保連から「福祉・介護職員処遇改善加算等総額のお知らせ」が届いたら、月ごとに保管して累計を控えておきます。実績報告のときに加算額を積み直さずに済みます。職員から照会があったときは、その職員の賃金改善の内訳を書いた回答書を作ります。写しは計画書と同じ場所に綴じておく運用が考えられます。
計画書と実績報告書は、根拠資料と併せて2年間の保存が必要です。会議録も周知文書も回答書の写しも同じ2年で管理すれば、実地指導と職員説明の両方に同じ束で対応できます。
※これは制度上の必須要件ではなく、一次情報から導ける運用例です。
取組の公表は、しなければならないのか
加算Ⅰ・Ⅱを算定する事業所は、職場環境等要件を満たすために実施した取組項目とその具体的な取組内容を公表することになっています。
公表の場は、障害福祉サービス等情報公表制度です。処遇改善加算の算定状況も、あわせて報告します。この公表は、求人に応募する人も在籍している職員も見ることができます。取組を書き込んでいる事業所と、項目だけ選んで中身が空欄の事業所では、外から見える誠実さが変わります。
僕はこの欄を、採用と定着の材料として見ています。在籍している職員が読める場所に、事業所が何をしたかが並ぶからです。空欄のまま出すと、真面目に配っている事業所ほど損をすると思っています。書く手間はかかりますが、中身のある取組内容を残しておけば、説明を求められたときの材料になります。
制度が求めているのは、加算をいくら受け取ったかの開示ではありません。どういう方法で賃金改善に回したかを、職員が理解できる状態にすることです。順番をつけるなら、配分の設計、周知の記録、国保連の通知の保管の順です。設計だけが先に走ると、説明の材料が手元に残りません。結局、いくら配ったかより、配り方を説明できることが一番大事だと思っています。
あわせて読む
配分と要件の全体像は、別の記事にまとめています。
- 処遇改善加算の配分ルール … 誰にどう配れるかの考え方
- 処遇改善加算の算定要件 … 要件の全体像
- 処遇改善加算の計算方法 … 加算額そのものの出し方
- 令和8年度の処遇改善加算 … 令和8年度の改定内容
- 職員への周知
- 賃金改善を行う方法等を職員に周知する。就業規則等の内容についても周知する(通知8(1))
- 照会があったとき
- 当該職員の賃金改善に係る内容について、書面を用いるなど分かりやすく回答する(通知8(1)、Q&A問2-6)
- 計画書での誓約
- 「本計画書の内容及び賃金改善の方法を雇用する全ての職員に対して周知しました」にチェック。証明資料の例は会議録、周知文書
- キャリアパス要件の周知
- キャリアパス要件Ⅰ・Ⅱ・Ⅲは、就業規則等の根拠規程や研修計画を書面で整備し、全ての福祉・介護職員に周知することが要件
- 実績報告での突合
- 令和8年度の加算額と令和8年度の賃金改善額を並べ、賃金改善額が加算額以上であることを報告する(別紙様式3-1)
- 下回った場合
- 算定要件を満たさないものとして返還の対象。ただし不足分を賞与等の一時金として追加配分すれば返還を求めない取扱いも可(Q&A問1-9)
- 記録の保存
- 処遇改善計画書・実績報告書は根拠資料と併せて2年間保存
事業所数も定員も、都道府県でかなり違います。全国の就労継続支援B型は20,783事業所で、前回の公表から+874事業所でした(WAM NET 2026年3月31日時点)。自分の県の事業所数・定員・平均工賃は都道府県別データで確認できます。
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